ハイブリッドセンサーシステム Part1
(PSDセンサーと超音波センサーの複合センサーシステム)

1.ハイブリッドセンサーシステムの目的

「BLACK TIGER NEO」に MANOセンサーボードHRP100を搭載 して自律バトルシステムを構築してきた。PSDセンサーは15cm〜80cmの捕捉範囲が自律バトルには適しているので使い込んできたが、PSDは指向性が高く、位置を正確に捕捉できるというのが長所である反面、捕捉範囲が狭いという欠点があった。実戦では特に、攻撃可能な至近距離の真前にあるいは真横に目標があっても捕らえられないことが多く、この欠点を補うために、PSDを同方向に平行して複数配置する方法を試行したが、干渉が生じるため、個数を増やすことで必ずしも捕捉範囲を広くできないことが分かった。このため確実な捕捉システムが必要となっていた。

高性能の小型超音波センサーMX001 LV-MaxSonar EZ0〜4は、感知範囲が広角から狭角まで5種類あり、目的に応じて使い分けが可能であるうえ、従来の発信機と受信機が一体となり非常にコンパクトな大きさである。また、近いほど出力値が小さく、遠いほど大きくなっており、近距離では正確な距離測定が可能な仕組みとなっている。電源も3.3V〜5Vまで使用でき、出力もデジタル、アナログなど汎用性が高い仕様となっている。

小型超音波センサーは複数を使用するに当たっては干渉が生じる可能性があるが、4方向に使用して見た結果、近距離では特段の問題は生じないことが分かった。4個を前後、左右に各1個ずつ配置して感知させた結果は「小型超音波センサー搭載」にまとめた。この試験結果は小型超音波センサー4個のシステムはPSDセンサーシステムとほぼ同等な能力を発揮する可能性を示唆している。EZ4(狭角タイプ)は指向性がPSDと遜色ない位に高いので、捕捉・攻撃に適したセンサーといえる。EZ1,EZ2(広角)タイプは捕捉が不安定な印象があるが、PSDと比較して捕捉範囲が広い。

このようなPSDセンサーと小型超音波センサーの長所を生かし、欠点を補う目的でハイブリッドセンサーシステムを作成することとした。

2.センサーの配置

(1)PSDセンサー:左右腕横各1個、胴体前旋回軸サーボ左右各1個、胴体後サーボカバー左右各1個(縦置)の合計6個。 前後には中央に近づけてそれぞれ2個設置して、捕捉範囲を広くし確実に捕捉できるようにした。また、中央に感知した方が正確な攻撃が可能となるため。電源は胴体後サーボカバー左右各1個(縦置)は補助電源ボードから、ほか4個はすべてMANOIセンサーボードから得ている。

(2)小型超音波センサー:左右腕横各1個(EZ4:狭角)、胴体前面胴体旋回軸サーボ1個(EZ1:広角)、胴体後面中央1個(EZ2:広角)の合計4個。干渉のないように90度ずらして配置。近距離では干渉が少ないと判断した。左右には攻撃が正確になるように指向性の高い狭角のEZ4を、前後には補足範囲が広く、防御的な攻撃ができる。電源は4個すべてMANOIセンサーボードから得ている。

PSDセンサー6個と小型超音波センサー4個を接続・通電して動作試験を行ったが、フリーズは認められず、電源は十分であることが確認できた。



「BLACK TIGER NEO」ハイブリッドセンサーシステム搭載 2009.3 

(新自作機体:Open Class 機:自律バトル機能搭載)


3.ハイブリッドセンサールールの作成

「小型超音波センサー4個のセンサーシステム」と「PSDセンサー6個のセンサーシステム」のハイブリッドセンサーシステムのセンサールールの構成4方式。

いずれもスタートシステムはPSDセンサー2個でスタートするセンサールールと小型超音波センサーでスタートするセンサールールをセット。これはどちらかのセンサーシステムに不具合が生じていても確実にスタートできるようにしておくため。

探索の感知は2個のPSDセンサーで別々に行い探索動作を確実に実行させる。小型超音波センサーは遠距離ほどノイズの影響を受けやすいため探索には使用しない。

(1)ハイブリッドセンサーシステム(HP6+HS4):近接・中接・捕捉・別にそれぞれ先にPSDセンサーでその後、超音波センサーで感知させ、最後にPSDセンサーで探索を感知させるセンサールール
(2)ハイブリッドセンサーシステム(HS4+HP6):近接・中接・捕捉・別にそれぞれ先に超音波センサーでその後、PSDセンサーで感知させ、最後にPSDセンサーで探索を感知させるセンサールール
(3)ハイブリッドセンサーシステム(HP6)+(HS4):PSDセンサーで近接・中接・捕捉を感知させ、その後、超音波センサーで近接・中接・捕捉を感知させ、最後にPSDセンサーで探索を感知させるセンサールール
(4)ハイブリッドセンサーシステム(HS4)+(HP6):超音波センサーで近接・中接・捕捉を感知させ、その後、PSDセンサーで近接・中接・捕捉を感知させ、最後にPSDセンサーで探索を感知させるセンサールール

4.ハイブリッドセンサールール4の動作試験

(1)ハイブリッドセンサーシステム(HP6+HS4)



(2)ハイブリッドセンサーシステム(HS4+HP6)






(3)ハイブリッドセンサーシステム(HP6)+(HS4)










(4)ハイブリッドセンサーシステム(HS4)+(HP6)





5.ハイブリッドセンサールール4の動作試験の評価と考察

(1)近接・中接・捕捉・別にそれぞれ先にPSDセンサーでその後、超音波センサーで感知させるハイブリッドセンサールール:(HP6+HS4)と先に超音波センサーでその後、PSDセンサーで感知させるハイブリッドセンサールール:(HS4+HP6)を比較すると、捕捉範囲が広い小型超音波センサーを先に感知させた方が捕捉能が向上する。

(2)ハイブリッドセンサーシステム(HP6)+(HS4)とハイブリッドセンサーシステム(HS4)+(HP6)ではPSDセンサーシステムを優先した(HP6)+(HS4)の方が正確な攻撃ができている。PSDセンサーシステム優先の方が捕捉・攻撃の正確性を反映して攻撃もヒットしている。超音波センサーは捕捉を逸した時の予備的なシステムとして後にした方がよさそう。

(3)近接・中接・捕捉毎にPSDと小型超音波センサーでそれぞれ感知させるハイブリッドシステムとPSDセンサーで近接・中接・捕捉を感知させ、その後、超音波センサーで近接・中接・捕捉を感知させるハイブリッドシステムの明確な違いは認識できなかった。どちらが優れているかは実戦で確認する。

(4)自律バトルのセンサーシステムはここしばらくはハイブリッドシステムとする。このシステムは従来のシステムと比較して、信頼性は非常に向上している。

6.ハイブリッドセンサーシステムの対実機試験

(1)ハイブリッドセンサーシステム(HP6)+(HS4)

「BLACK TIGER NEO」のハイブリッドセンサーシステムの実機との対戦試験をザウラーとROBO-SPOTで実施した。センサールールは(HP)+(HU)でPSDセンサー感知に次いで超音波センサー感知を別々に行うシステム。



PSDセンサーが感知した攻撃はやはり正確にヒットしている。ただ、重量のあるザウラーが防御すると攻撃力は限定的であるが、よいタイミングでヒットすると倒せる。超音波センサーが感知したと思われる攻撃は正確性を欠くが防御的攻撃としては効果的なタイミングで出ている。また、ハイブリッドシステムにしたことで接近戦での攻撃数が増加している。

超音波センサーの誤感知と思われる捕捉の動作が1〜2か所あったが、結果的には適度な防御動作となっている。誤感知かセンサールールの間違いか確認する必要がある。

捕捉距離の設定はほぼ適格で、捕捉範囲に目標があるとほぼ100%捕捉している。また、近接攻撃と中接攻撃が的確に動作している。ハイブリッドシステムにしたことで感知能力がUPしている。

ハイブリッドシステムではPSDセンサー、小型超音波センサーを左右、前後中央の4方向に絞ったが、8方向に分散するよりも捕捉感知能が高く、1回の45°旋回でほぼ8方向がカバーできるので、この方が捕捉効率がよい。

ハイブリッドセンサーシステムは従来のPSDセンサーのみのシステムと比較して目標の捕捉能がUPしており、攻撃が的確に出るようになっている。重量のあるオープンクラスのロボットのプロポ操縦と同等以上の自律バトル能が確認できた。実機対戦試験につきあっていただいたKENTAさんに感謝。

7.ハイブリッドセンサーシステムの実戦試験 その1

第2回KONDO BATTLE オープンクラス(2009.5.3)に自律制御で参加した。1回戦はKLRV(住吉)との対戦。両者共にリンリグ外へ落下して1-1で延長戦へ。誤作動によるリング外への落下の防止が課題。延長戦では前日に仕込んだ横拳+後廻モーションがヒットしてなんとか勝利。攻撃モーションの攻撃範囲を広げるなどの工夫を加えたことで効率的な攻撃ができている。



2回戦はファントム(ブラック)との対戦。早々に1ダウンを取れた。ファントムに投げなれそうになりながらも投げから逃れる。リング外に落ちそうになるところを団扇で逃れようとしたが反対にリングアウトさせてしまった。ファントムを起き上がりでリングアウトして、結局、時間切れ2−1で苦勝。



準決勝はアームドール(クボ)との対戦。スタート当初からロボットが後方に傾き、倒れやすい動き。コネクタの接触不良か?原因は不明。結局、移動が十分でないところをアームドールに背後からつかまれてダウン。1ダウンもとれずに敗退。ここまでが現時点での実力で限界。



自律バトルで準決勝BEST4まで勝ち進んだのは始めて。今回の2勝は4000番サーボ搭載の中型機から得られたことは一歩前進。センサーシステムが安定してきたことの成果。これで自律バトルで公式戦通算8勝。

ハイブリッドセンサーシステムとしたことで、捕捉能が向上した。ただ、@非常に接近した場合に捕捉していない箇所が散見されるので、極近くでの感知能向上が課題。また、A攻撃までのラグタイムが長いのでこれを短縮する必要がある。また、B3回戦では歩行が不安定になったのが敗因、以前もこのような現象があったので原因を究明する必要がある。

8.ハイブリッドセンサーシステムの実戦試験 その2

ロボットフェスティバル09 (2009.5.17芝浦工業大学)のロボワントーナメントに自律制御で参加した。舞台は周囲4方向の白熱ライト(フィラメント系ライト)の4台のスタンドから2〜3mの距離で中央のリングが照明されるようになっていた。白熱ライトは赤外線を発するのでPSDセンサーへの影響が懸念された。床にも強烈に光が反射している。

「BLACK TIGER NEO」は1組で第1試合の対戦相手は第2回KONDOU BATTLEで対戦したPhantom(ブラック)。試合開始はじめからリングアウトするやら、ダウンを取られるやらで、簡単にリベンジされてしまった。



敗因は、白熱ライトによるPSDセンサーへの影響が大きい。今回のリングの設営状況とライトの配置から、PSDセンサーが白熱ライトの赤外線を影響を受けて誤作動し、それに伴いPSDセンサーの感知能力が低下することが分かった。

以前から、競技会によってPSDセンサーの誤作動が観察される場合と観察されない場合があり、照明が原因ではないかと疑っていたが、原因はやはりライトの種類によると確信した。また、長井のロボフェスタまでは、感度が異なるPSDセンサーを混ぜて使用していたので、感度の良い2YAOではより誤作動がより顕著に現れたことが推察できる。

敗者復活戦の第1試合は対戦相手「ブリニガーZ」の調整不良でTKO勝ち(自律バトルの勝ち数には含めない)。目標が近くにいないにもかかわらず、白熱ライトによりPSDセンサーが影響されて誤作動していることがよくわかる。



第2試合の対戦相手は「ドリラー」。第2試合では、少しでもPSDの誤作動を防ごうと4個のライトのうちの1個の前に立って光をさえぎるようにしてみた。これにより幾分かはPSDセンサーの状況が改善されたかもしれない。試合は容易に決着がつかず、結局3ラウンドほとんどフルに戦うことになった。やはり、3ラウンド目はサーボがだれてきて転倒が多くなった。最後はPSDの誤作動によりリングアウトして惜敗。

第1ラウンド


第2ラウンド


第3ラウンド


9.ハイブリッドセンサーシステムの実戦試験 その3

(1)「第2回ロボット大会 in 早稲田」(11月8日)のための、自律バトルセンサールールの事前検討

PSD、超音波センサーをチェックしたところ、右腕横11の超音波センサー(EZ4(黄)狭角タイプ)の不具合を発見。11月1日の法政大ロボットバトルの際にも不調だったので予備のEZ0(黒)広角タイプと交換。これで、前・後・右は広角タイプ、左のみ狭角タイプとなった。広角の方が捕捉は良いかもしれない。

センサールール4タイプの試験。目標は1.5Lペットボトルを紙で巻いたものを使用、高さは40cm。@PSD優先(D3:らせんセンシング:従来方式)、A超音波優先((HS4)+(HP6)3:らせんセンシング:従来方式)、B新PSD優先(N2H(P)+(U):放射状センシング:新方式)、C新超音波優先(N2H(U)+(P):放射状センシング:新方式)、それぞれ動画を撮影して分析した。

@PSD優先(D3:らせんセンシング:従来方式)


A超音波優先((HS4)+(HP6)3:らせんセンシング:従来方式)


B新PSD優先(N2H(P)+(U):放射状センシング:新方式)


C新超音波優先(N2H(U)+(P):放射状センシング:新方式)


4つのうちではAの超音波優先の捕捉がよいようだ。攻撃範囲内での捕捉・攻撃の頻度が高い。超音波優先はいままで実戦で使用したことがないが、PSD優先より外光による誤作動も受けにくいと考えられるので、「第2回ロボット大会 in 早稲田」ではこれを使用することとしたい。

(2)「第2回ロボット大会in早稲田」における「BLACK TIGER NEO」自律バトルの結果分析

センサーの配置は、PSDセンサーを前面2個、後面2個、右側面1個、左側面1個の計6個。超音波センサーは前後左右に各1個、前・後・右は広角タイプ、左のみ狭角タイプで計4個。PSDセンサーと超音波センサーの合計10個によるハイブブリッドセンサーシステム。

センサールールは前日事前試験したセンサールール4タイプ@PSD優先(D3:らせんセンシング:従来方式)、A超音波優先((HS4)+(HP6)3:らせんセンシング:従来方式)、B新PSD優先(N2H(P)+(U):放射状センシング:新方式)、C新超音波優先(N2H(U)+(P):放射状センシング:新方式)で捕捉の良かったA超音波優先((HS4)+(HP6)3:らせんセンシング:従来方式)をloadingした。

試合前のセンサーの感度試験で、後面のPSDセンサーNo27,28が感知していないことを発見。チェックしたところ、電源No9のコネクタがはずれていた。コネクタを入れなおしてセンサーの感知を確認。

試合前にリングでセンサールール試験を実施した。会場は上面に蛍光灯が配置されており外光は少ない。(ただし、試合中は下面からフィラメント系の照明あり)。自律動作試験では目標がなければ探索動作を繰り返し、ほとんど誤作動がないことを確認した。

今回は自律システム動作中(センサーボードから高速シリアルへ)でも無線コントーロール(KRC-1+KRT-1から低速シリアルへ)が可能なことが分かったので、以前は「うちわ」で行っていたリングアウトの回避を無線で行うことととした(セミ自律バトル)。

1回戦はバルバロと対戦、動画は以下のとおり。


開始早々ダウンをとられるも、ワンダウンを取り返したところで、バルバロが操縦不能でリタイヤ、TKO勝ち。

2回戦は敗者復活で勝ち上がってきたデュミナスと対戦、動画は以下のとおり。

開始早々、おそらくセンサーの誤作動で右方向へ移動したので、リングアウトを避けるために無線で中央に戻した。無線でリングアウト防止のための移動はこのほか2〜3回行った。いずれも同じ場所で同じ方向。

目標の捕捉はまずまず、パンチがヒットしなかったが、広角の超音波センサーを使用しているためか?ただ、攻撃は最大の防御で、狭角より広角の超音波センサーを搭載すべき。2ダウンとられて延長戦に入り、サドンデスで敗退。ダウンと認定されなかったが、立ち上がりの際にヒットしてワンダウンを奪っている。まずますの内容。

最初の誤作動以外は特段の誤作動は認められなかった。最初の誤作動の原因は不明であるが、下からの照明の影響の可能性もある。

終盤になって、足の不具合が表面化した。試合後に調査したところ、RCB-3HVへ接続のコネクタが外れかけていた。やはり試合前にはコネクタのチェックが必須であることを実感した。コネクタのはずれが今回これで2件、コードに十分ゆとりがない可能性があるので要調整。

10.自律バトルシステムの今後の課題

(1)PSDセンサーの誤作動の防止は言うまでもない。ただ、これはリングの照明によるので影響を少なくすることを検討せざるを得ない。超音波センサーとのハイブリッドシステムしか方策はない。

照明が白熱ライトの場合は、PSDセンサーを先にスキャンするプログラムから、超音波センサーを先にスキャンするプログラムに変更するのが効果的と考えられる。PSDセンサー優先のプログラムと超音波センサー優先のプログラムとを使い分ける必要がありそう。

試合前にリング上で動作試験を行い、照明によるPSDセンサーの誤作動がないかチェックし、誤作動が認められれば、超音波センサー優先のプログラムに変更する。この場合、超音波センサーも従来主体としている狭角タイプよりも広角タイプを主体にした方が良いかもしれない、要検討。

(2)感知から攻撃までのラグタイムをなくすこと。攻撃圏内にあることを感知しても逃げられてしまうことがあった。

(3)敗因にはPSDの欠点をカバーする超音波センサーの不具合もあった。原因はセンサーとコードの接続部のコードの断線。センサーのコードは細い上にハンダ付けしているのでその部分が断線しやすい。ホットボンドで固めてからは断線が少なくなっているがやはり断線の防止が課題。

(4)長時間の動作ではサーボがだれて歩行が不安定になることが判明した。これはサーボのメンテ不足による劣化が大きい。2年間一度もメンテしていないのでサーボのオーバーホールの必要がある。


「ハイブリッドセンサーシステム Part2」

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